社会心理学を参考に「人と人を”つなぐ”」のお話

人と人をつなぐ

以前、店舗経営の勉強の為、社会心理学を学ぶ機会がありました。
普段我々は、様々なビジネスシーンでコミュニケーションの為のシステムを販売しておりますが、そもそも、このようなシステムが必要になるのはなぜなのでしょうか。
今回は他者とのコミュニケーションを健全化する為にはどのような考え方が必要かを、社会心理学に基づいて書いていきたいと思います。

対人コミュニケーションの基本構造

まず、対人コミュニケーションは一般的に、以下の図のような流れで交わされます。


対人コミュニケーションの基本構造

左図のように男性が女性に花を贈ったとします。男性は「よろしくお願いします」と発言し、唐突に花を贈られた女性の方は、少し戸惑った感じで「あ、はい」と答えています。
このように音声などにより記号化してコミュニケーションを取ることを「言語コミュニケーション」と呼んでいます。また一方で、花を受け取った女性は男性が好意的な表情をしていることから解読し、「え?私のこと好きなの?」と感じ取っています。
このような非音声的なコミュニケーションを「非言語コミュニケーション」と呼んでいます。

接する距離と心の関係

人が接近する場合と回避して遠ざける場合について、それぞれの心理的意味と、コミュニケーションを取る際のチャネルの物理的状態を図に表すと、以下のようになります。

たとえば、「接近」に関する心理的な意味は、「好きだ」「触れたい」「親しくなりたい」などの表れとなり、物理的に「好意的な発話」「明るい声」「笑う」などが伴うことで、より強調されて伝えることができます。
逆に、「回避」した場合の心理的な意味は、「嫌いだ」「触れたくない」「認めない」などの表れとなり、物理的に「非好意的な発話」「暗い声」「無表情」などが伴うことで、より強調されて相手に伝えることができます。
従って、心理的意味とチャネルの物理的状態をうまく調整することで、自分の意思をほどよく相手に伝えたり、もしくはわざと強調して相手に伝えるといったことができるようになります。
こういったことから、相手が見える場所にいて、どのような距離感でどのような表情をしているかが、コミュニケーションを正確に取るうえで重要であることが分かります。

知識の共有

皆さんは相手と知識を共有する際に、どのように話しますか?たとえば、テーブルに写真のような飲み物があったとします。

Aさん(英語圏)とBさん(日本語圏)のお二人がこの写真を見て話しています。Aさんが「What it is?(これは何ですか)」と尋ねてきました。Bさん「これはココアですよ」と答えましたが、Aさんは「What you say?(なんと言ったのですか)」と聞き返しました。ここで英語がご堪能な方は気が付いたかもしれませんが、日本人が「ココア」と呼んでいる飲み物は、英語圏では一般的に「hot chocolate」と呼ばれています。


このように「ココア」のことは知っていても、日本語が分からないことで理解してもらえない場合は「言語に関する知識」が必要となります。また、逆にAさんが「ココア」自体を知らなかった場合、言葉が通じたとしても同様に理解してもらうのは難しくなるでしょう。このような場合は「その事柄の世界に関する知識」が必要となるでしょう。

物事には2つの意味がある

上記の「ココア」を例にすると、たとえば、Bさんがココアのことを、「黒くて甘い、チョコレートを溶かしたような飲み物」と説明すると、Aさんは「なるほどhot chocolateのことか」と分かるかもしれません。これは言葉の定義のようなもので、「外延的な意味」に当たります。もしくはBさんが、「熱々にして飲むと体が芯からあったまる」「心も体にも嬉しいドリンク」と説明すると、Aさんは「それはhot chocolateのことかも」となるかもしれません。このように個人の経験に基づく抽象的、感情的なものは「内包的意味」に当たります。
以上のようなことから、言語コミュニケーションのみで正確に相手に物事を伝える為には、言語に関する知識や記号化のスキルが求められることになります。特に地域や文化が異なるメンバー同士にとって、会話する前後の情報が自然に視覚や聴覚に入ってきていれば、より綿密なコミュニケーションを取ることができると言えます。

協調の原則

聞き手と話し手とは協調して話をしなければならず、伝えたいとおりに理解されるためには「お互いに受け入れ合わないといけない」という原則を「協調の原則」(Grice,1975)と言います。

会話が進行していくプロセスの中で、左図のように互いに了解している会話の目的ややり取りの方向に沿うようにコミュニケーションを取っていくことで、相手は「この後も会話に参加するだろう」という期待を抱き、そこに会話の協調性が生まれることになります。


逆に協調の原則に反する行為があっても、人はその前後の出来事から想定して言語の意味を受け取ることができます。左の方は汚い机の状態を見て、「まるであなたの机はごみ箱ね!」と言っていますが、もしも相手が唐突にそのようなことを言われたら、「僕の机はごみ箱じゃない」と答えてしまうかもしれません。しかし、相手の表情や身振り、その前提でコミュニケーションしていた経験があると、「机の上を片付けなさいと言いたいのだな」と想像することができ、「最近忙しくて…」という的確な意味での返答が可能になるわけです。

身体動作のチャネル

基本6感情「怒り」「恐れ」「驚き」「悲しみ」「嫌悪」「喜び」。
顔面表情は感情の第一の伝達手段で、表情に表すことを「記号化」と呼びます。
この中で快・不快は生後すぐに記号化できると言われていますが、「恐れ」「驚き」「嫌悪」はすぐには記号化できません(Brecht et al.2009)。たとえば「嫌悪」という感情には、「怒り」や「驚き」などの他の感情も含有した複雑な感情であるからと言われています。
また、育った環境によっても記号化の表現方法や解読の仕方は異なります。

※中村(1991:図の出典 磯,2012)

左図のように、私的な場面では日本もアメリカも感情の表出の程度にあまり差はありません。ところが、これが公的になると変わります。日本では「人前で嫌な顔を見せるな」という教育がされていることで、人前ではあまり嫌悪の感情を表出しませんが、アメリカでは表出の程度が高いです。
また、悲しみの感情については、「人前で弱いところを見せるな」という教育を受けているアメリカでは表出の程度が低くなっています。
このように、「このような場面ではこのような表情をすべき」又は「すべきではない」といった考え方は、文化的ルールに影響を受けています(表示規則:Ekman,&Friesen,1975)。

プロクセミックス

「プロクセミックス」とは、他人との距離(パーソナルスペース)が人に対してどのような影響を与えるかに関する学問や行動のことを言います。「プロクセミックス」では、相手との距離は心の距離だとも言っています。
対人距離は、一般的に人と人との親密さや、個人的であるか公共的であるかによって、以下の図のように変化します。

また、自分の体の一部になっているように感じられ、他者に侵入されると生理的に不快に思う空間を「パーソナルスペース」と呼びます。個人のアイデンティティやプライバシーの維持、攻撃への防御、親密度の調整などによって、このスペースの大きさは都度変化します。

チーム力向上に重要な要素

社員の生産性を極限まで高めるには、どうすればいいのか?
――米グーグルが2012年に開始した労働改革プロジェクト「Aristotle(アリストテレス)」。
Google のピープル アナリティクス チームは、「Project Oxygen」というリサーチ プロジェクトによって、「優れた上司の条件」を突き止めることに成功しました。このプロジェクトの成功を受けて、Google の研究者はその後、Google 社内で効果的なチームの特徴を明らかにするため、同じ手法を用いて新たなリサーチを実施しました。

同プロジェクトに携わる研究者についての詳細は、The New York Times の記事「What Google Learned From Its Quest to Build the Perfect Team」をご覧ください。


実施した結果、チームが和気あいあいとしているだとか、チーム全員が赤の他人のように殺伐としているなど、いわゆるチームでの”働き方”が生産性に与える影響はほとんどありませんでした。結果として、成功のカギは以下の2つであることが判明しました。


  1. 心理的安全性(psychological safety)

  2. 社会的共感

つまり、社員一人ひとりが会社で本来の自分を曝け出すことができること、そして、それを受け入れるための「心理的安全性」、つまり他者への心遣いや共感、理解力を醸成することが、間接的にではありますがチームの生産性を高めることにつながるということです。


参考 働き方改革で重要なチームの働き方空間創造×エンジニアリング

非言語コミュニケーションの大切さ

以上のことから、言語コミュニケーションのみならず、対面で非言語コミュニケーションを取ることが対人関係において非常に重要であることが分かります。普段は電話やテレビ会議でコミュニケーションを取っていても、たまには直接会ってその場の空気感を共有しながら話すことが重要だと言うことです。

遠隔地との空間共有

とはいえ、遠隔地にある事業所同士のコミュニケーションやテレワークを実施しているチームでは、必ずしも対面でコミュニケーションが取れるといった環境にありません。
遠隔地にいる人同士でもメールや電話などで簡単にコミュニケーションをとることができるとはいえ、同じ空間を共有する感覚を得ることは難しいと思われます。そのような場面で対面に近いコミュニケーションを取る方法が「空間共有ソリューション」です。

普段、会議の際にテレビ会議やウェブ会議をご利用されている法人様が多いと思いますが、オフィスの中に会議を開催する端末とは別に、常時接続しておく端末とディスプレイを用意し、常にお互いが繋がった状態にしておくというやり方です。この方法では常に相手の行動が分かるうえ、音声も聞こえているのでいつの間にか同じオフィスにいるかのような雰囲気になり、気軽に話しかけたり、冗談を言い合ったりと、気軽にコミュニケーションを取ることができるようになります。


他社様の事例では、テレワークをコワーキングスペースや自宅で行っている方も、このテレビ会議システムを別途設けて常時繋いでおくことで、上司やチームメンバーとのやり取りがスムーズにできるようになったという意見が見受けられます。

働き方改革の本質はソフト面の改革

働き方改革推進はオフィスの更新・引っ越しなど、ハード面の改革だけではなく、雇用制度の見直しやコミュニケーション方法の改革など、ソフト面の改革が重要です。
「仏つくって魂入れず」という言葉がありますが、モノありきではなく、ぜひ自社の課題に合わせたオフィス改革と制度改革を実施し、「ワークスタイル変革」を目指してください。私たちが空間創造をエンジニアリングの力でお手伝いさせていただきます。

▼以前の記事でテレワークにおけるテレビ会議システムとWeb会議システムの活用比較を掲載しております。ご参考まで。