皆さんはデザイン思考(又はDesign Thinking)という言葉を聞いたことがありますか。
この記事の目次
デザイン思考とは?
デザイン思考(Design Thinking)とは、デザインしたサービスやプロダクトの先にあるユーザーを理解し、仮説を立て、初期の段階では明らかにならなかった第二の戦略や代替する解決策を特定するために問題を再定義する、一連の問題解決の考え方のことです。
※株式会社ベーシック「ferret」より抜粋
「デザイン思考」は、建築家のブライアン ローソン氏やエンジニアの L. ブルース アーチャー氏、政治学者のハーバート サイモン氏などが最初に用いたことで有名な手法です。
世界的に有名な企業も採用しているデザイン思考は現在、スタンフォード大学の d.school、HPI School of Design Thinking、ハーバード大学などで正式科目となっています。
社内でワークショップを開催
今回、我々事業推進室のメンバー+人事総務部1名が参加し、ワークショップを開催しました。
今回のワークショップは、グーグル様「以下Googleと呼ぶ」のピープル デベロップメント(人材開発)チームが開発した CSI:Lab プログラムをもとに、当社向けにカスタマイズして実施しました。
じゃんけんでウォームアップ
まずは、ワークショップを始める前に、2人ずつ組になってチームワークを高めるじゃんけんゲームを行いました。
敗けた人は勝った人の名前を大きな声で読んで、支持を表明。
勝った人は次の挑戦者を見つけ、勝者が決まるまで同じことを繰り返す。
じゃんけんは必ず声を出して、他の方は勝者を応援してください。
このじゃんけんの目的は、他人を引き立て、その人の考えを支持することを学ぶことです。たとえ負けてしまっても、素直に敗北を認めて、勝者を全面的に支持することができます。結局、皆、同じチームで働いているのですから。
アイデアはどこからくるか
アイデアというのは、古い要素を新しい組み合わせにすることで出来上がります。古い要素から新しい組み合わせをつくる能力は、おもに物事の関連性を見極める能力によって決まります。
様々な情報を整理し
そのすべての情報に相互参照をつけ
必要な時に取り出せるようにタグ付けしてスクラップしておく
しかし、そういったアイデアを活用し、イノベーティブな文化を育むのは、容易なことではありません。
みなさんも”イノベーション”という言葉をよく耳にされると思いますが、イノベーションとは別に何か大きなイベントのことを指すわけではありません。
「イノベーションとはマインドセットだ」と言われています。
マインドセットとは、生きてきた環境、経験や教育などの先入観から形成されるその人の価値観や思い込みのようなもので、個人のみでなく、組織にも存在します。特に組織のマインドセットは企業風土であったり、企業戦略であったりもしますので、組織に所属する従業員へ徐々に浸透していきます。
そのマインドセットが時流に合ったものであれば、組織の総合力でどんどんイノベーションを起こしていくことができるかもしれません。
しかし、必ずそうとは限らないのが現実です。でも、マインドセットは、皆さんの意思で学び育むことができます。問題を理解し、それを定義したり、チームでブレストしたりしていくと、問題解決に取り組むときの習慣的思考や言動を少しずつですが、変えていくことができるはずです。
いよいよワークショップのスタートです
今回は Google の例を元に進めていきます。
Google にはデザイン思考に対する3つの原則があり、イノベーション プロセスはこの原則に基づいて考えられ、定義されています。
Google のイノベーション プロセスで最も重要な点は、ユーザーに焦点を当てることです。すべてはここ、すなわちユーザーから始まります。
10% の改善と 10倍の改善の間にどれほどの違いがあるか、考えてみたことはありますか。このステップでは、現状よりも 10% 良いアイデアではなく、10倍良いアイデアを考えることに挑戦します。
アイデアを試して実際のデータを入手し、続行すべきか中止すべきか、それとも調整すべきかを見極めます。
これから、チームや個人それぞれが問題への取り組みを通して独自のプロセスを考え、調整と強化を繰り返していきます。これはマインドセットのための演習ですから、結果だけでなく、プロセスと作業の進め方にも気を配ることが重要です。
どのようなプロセスをとるにしても、基本となるのは「共感」という心の働きと、プロトタイピング、コラボレーション、反復、フィードバックの姿勢です。
ユーザーフォーカス
共感する
では、2人1組になって向かい合わせに座り、それぞれの役割を決めます。
そして、Aさん役、Bさん役に分かれます。
決まりましたら、Aさん役が次の話題について3分間話します。
「去年一番つらかったことは何ですか?」仕事上のことでも個人的なことでも構いません。
話すことがなくなったら、静かに座っていてください。
Bさん役の方は、話を遮ることなく耳を傾けます。気がそれたら意識を戻して、しっかり話を聞き続けます(後で聞いた内容を振り返ってもらいます)。誰しも、問題を聞いているうちにその解決策をいろいろ考えてしまうので、黙って話を聞き続けるのは困難かもしれません。しかし今回は、我慢してみましょう。
終わったら、Bさんは聞いた話を振り返り、Aさんに話します。
Aさんは、Bさんの解釈に対して、フィードバックをします。
「Aさんは、あなたの話の本質を理解していましたか?」
「どんな点が抜けていましたか?」
共感するには、話を聞く前に自分の思い込みや見解を捨てる必要があります。話の本質に迫るうえで役に立つのがフィードバックです。
次は、実際にこの2つのテクニックをプロジェクトに応用してみましょう!
インタビュアーになってみよう
ユーザーをより深く理解するためには、熱心に調査を行う必要があります。調査は観察、シミュレーション、フォーラム、研究、現地調査、インタビューなど、さまざまな方法で実施できますが、本日はインタビューを中心に進めていきます。
インタビュアーの役割は、新しいアイデアを思い付いたり、解決策を見つけたりすることではありません。それは、本質を理解する妨げとなりますので、話をよく聴き、意見を求めるように努めます。
インタビュアー: チームから 1 人
話し手: チームから 1 人
聴衆: 残りのメンバー
聴衆の役割:インタビュアーがもっと踏み込んで話を聞けばいいのにと思ったことや、話し手の内面の心理が感じられる興味深い洞察を書き留めます。
ここで本日の問題を発表します。
本日の問題は、「オリンピック開催期間中、スムーズに仕事ができるか心配!!」です。
5分与えますので、インタビュアーと聴衆の皆さまだけで、良い質問を準備してください。
コツは、「あなたが~したときは、どんなときでしたか?」のようなオープン・クエスチョン形式の質問を用意し、返答後にさらに掘り下げるような質問をすることです。少ししつこく感じるかもしれませんが、「それはなぜですか?」を5回繰り返すと、本人も気付いていなかった本質にたどり着ける可能性が高まります。今日の相手は会社の同僚ですから、遠慮なく聞きまくってください。
また、話し手を絶対に解決策に誘導しないでください。インタビュアーが解決策に誘導してしまうと、話し手はその解決策に準じた回答しかできなくなってしまい、いつの間にか本心ではなく、インタビュアーの思惑に誘導された内容を話してしまいます。
インタビューはいかがでしたか?
聴衆の皆さまにお尋ねします。
「話を引き出すチャンスを逃していませんでしたか?」
「インタビュアーが解決策へと誘導していませんでしたか?」
話し手の方にお尋ねします。
「何か気付いたことはありますか?」
「どのインタビューのヒントが役に立ちましたか?」
共感した内容を定義する
ユーザーの立場から課題を考えるための基礎はできたことと思います。「ユーザーはどのような人物か」と「ユーザーのニーズは何か」についてはよく理解できたことでしょう。これでユーザーの声は得られましたが、それをよく分析し、統合しなければ意味をなしません。次はその作業「定義ステージ」に進みます。
解釈の仕方は人それぞれに異なります。そのため、ユーザーを深く理解し、そこから思いも寄らないインサイトを引き出し、共通の認識に到達する必要があるのです。ユーザーは何を言い、何を行い、何を感じているのでしょうか。インタビューのステージで学習したことを理解するために行うのが統合(Synthesize)です。データを統合するときに使用するツールの 1 つが共感マップです。ユーザーとそのニーズ、データから導かれるその他のインサイトを理解するのに、この共感マップキャンバスが役に立ちます。
何を言っているか: ユーザーが口にした、気になる言葉は何か。
何をしているか: そのためにユーザーがとった行動や態度は何か。
何を考えているか: その考えから、ユーザーが何に価値を置き、どんな結果を求めているのか。
何を感じているか: ユーザーは何を感じているか。恐れ、不安または、望み、夢など
何を聞いているか: ユーザーは他の人、仲間、同僚から何を聞いているか。
何が見えているか: ユーザーはどのようなポイントを見ていますか。
推論を立てる
データを統合・定義するときに使用するもうひとつのツールが、「推論」を立てることです。これは、事実(実際に起きたこと)と推論(それが意味することは何か)を理解するうえで役立ちます。
左側: 事実(客観的)→ 実際に起きたこと
右側: 推論(主観的)→ ユーザーについて皆さんはどう理解するか
グループごとにホワイトボードを使って、推論マップを作ります。
ユーザーのインタビューで書き留めた付箋を「事実」としてまとめます。合わせて、新しい付箋にメモを書き留めて、推論を立てます。
必ず席を立ってホワイトボードに集まり、チームで話し合いながらマップを完成させてください。立ち上がって作業した方が、意見が出やすくなります。恐らく、この演習によって、ユーザーに対する理解を確かなものにできるでしょう。
着眼点(POV)をどこに置くか
では、ユーザー、ニーズ、インサイトについてまとめていきましょう。ここで着眼点を文章にまとめます。POV「Point Of View」とは、この後行うブレインストーミングで、皆様がユーザーのニーズに着目できるように、ユーザーについて皆さんが洞察できたことを簡潔にまとめる手法です。
POV は解決策のためのアイデアではありません。この点は重要ですので覚えておいてください。あくまでもひとつの問題定義であり、その解決法にはいく通りもの可能性があります。
具体的に表現する
名詞ではなく動詞を使う
観察した事実から洞察する(インサイト)
Mad Libsで文章化する
では、POVを文章化してみましょう。文章化にはこの「Mad Libs」を使用します。
「Mad Libs」は、あらかじめ用意された文章の空欄に入れる適当な言葉を誰かに言ってもらい、完成した文章を読み上げてみんなで楽しむゲームで、いわゆる穴埋めクイズみたいなものです。制限時間5分で、ユーザー、ニーズ、インサイトから情報を落とし込んで文章を作成してみましょう。
インサイトから課題を設定する
先ほど、POV は「ブレインストーミングを活発にする」ために作成すると説明しました。次は、そこから導き出したインサイトから、「どうすれば~できるか)」の形式で、ひとつ又は複数の文章にすればよいのです。これを「HMW(How Might We)」といいます。
HMW は、POV から生まれます。HMW は、幅広い解決策が出てくるだけの広範囲な定義が必要です。とはいえ、プロジェクトのサイズにマッチした範囲にする必要があります。
× 狭すぎる「どうすればテレワークを推進するための業務アプリを作れるか?」
× 広すぎる「どうすれば皆の生産性を上げ、会社の業績に貢献することができるか?」
このふたつの間がちょうど良い範囲と言えるでしょう。
POV に基づいて「どうすれば…」の形式で課題文を 2~3 文作ります。この際に、必ず解決策ではなく、目標を示します。そしてその中からブレインストーミング用にひとつを選びます。
10倍スケールで考える
ブレインストーミングを実施
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、このセッションが始まってもう1時間半が経過しました。でも、解決策のブレインストーミングはまったく始まっていません。「いつになったらブレインストーミングするんだろう?」そう思ったとしたら、実はとても望ましいことです。
たいていの場合、チームで課題が決まると、すぐに解決策に走りがちになるものです。危険なのは、その解決策が実際はユーザーのニーズと一致していないといった場合です。
今日はわざと十分な時間を費やして、ユーザー目線で考えてきたので、より簡単に、的を外さずに、アイデアを創り出す作業に取り組めることでしょう。
では、次のステップを説明します。最初の課題で考えた「How Might We(どうすれば…できるか)」の質問に対して、今から10分間で10倍のスケールで良いアイデアをたくさん考え出してください。たったの10分間ですが、本日は30個のアイデア出しにチャレンジしてみましょう。それでは、ブレインストーミングのルールを説明します。
ブレインストーミングでは、他の人のアイデアには「ええ、それに / そして…」と反応するのが適切です。
普段は「いや、でも」と発言がちではありませんか?しかし、これではブレインストーミングが前に進みません。必要なのは「そうですね、それに」から生まれる、より大きなアイデアです。他人のアイデアをつぶさないでください。突拍子もないと思われたアイデアが、確かな成果を上げる可能性があることがそのうちわかることでしょう。
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質より量を考えましょう
細かいことにこだわらず、見出しをつけるだけにしましょう
できるだけ視覚的に、文字ではなく絵や写真で訴えます
「不安と興奮」を感じるような、大きなアイデアを奨励しましょう
他の人のアイデアを一方的に判定したり、批判したりしないでください
私たちは皆、「安全にやれ、リスクを冒すな」、「同僚の前でバカな真似はするな」という内なる声に耳を傾けがちですが、今はその声を無視してください。人にどう思われようが気にしてはいけません。頭をからっぽにして、子どもの心を持ちましょう。
そして、あらゆる物事に好奇心を持ちましょう。課題を新しい角度から見てみましょう。チームメンバーの誰も専門家になってはいけません。自由にアイデアを出し合える雰囲気をつくりましょう。そして、誰もが安心でき、自分の意見が尊重されていると感じられるようにサポートしましょう。
立ち上がりましょう。座っていては、ブレインストーミングは行えません。人間は立っていたほうがより創造的になれます。各付箋に書かれたアイデアを集め、壁に貼ります。アイデアを詳しく説明せず、見出しのみをグループに紹介します。
試作と評価を繰り返す(プロトタイプドリブン)
プロトタイプとは?
プロトタイプは、初期段階のツール、サービス、アイデアなどを形にしたもので、次のふたつの重要な役割を果たします。
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思い込みをなくす:良いプロトタイプであれば、テストすることでその「知らないこと」が見えてきます。実際に使ってもらうことで、ユーザーが温めていた考えが出てくるかもしれません。
疑問に答える: プロトタイプからは何らかの疑問が出てきます。その疑問に答えようとすることで、さらに良いアイデアを生み出すきっかけができます。
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プロトタイピングの効果
プロトタイプがあれば、早い段階で失敗してそこから学習し、やり直すことができます。試すアイデアが多ければ「失敗」は多くなりますが、それだけ試せる機会が増えるということです。短い時間に小さな失敗を重ね、より多くのアイデアを試すことで、開発費も抑えることができます。長い目で見れば、大きなメリットがあると言えます。
重要なのは、ひとつのアイデアに執着しすぎ、無駄な時間や費用を使わないことです。少しでも改善のアイデアが出てきたら、切り替えて別のことを試すようにしましょう。また、商品・サービスとして最低限の機能をカバーしているかどうかや、自社のプロフィットとなる十分な需要があるかどうかも見極めることができるでしょう。
プロトタイプを作る
実際にどのようにプロトタイプを作る際には、ふたつの方法があります。
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見せ掛けの「フェイク」をつくる (FAKE IT):「動いているように見える」ものをすばやく作る
試作品をつくる (MAKE IT):早く、安く、アイデアの一部だけを形に
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では、先ほどのグループになって、今回は絵を描くことで、プロトタイプを作成していきましょう。自分のアイデアが伝わるように形にしてください。ディテールにこだわる必要はありません。時間は 20 分ですから、すばやく作業を終わらせましょう。
フィードバックの分析
今回は時間の関係でここまでとなりますが、通常はこの後、フィードバックの分析を行います。
フィードバックを行う際は、以下のことをチェックします。
適切に動作しているのはどの機能か
ユーザーの予想や希望に沿っていなかったものは何か
新しくひらめいたアイデアがあるか。それはどのようなアイデアか
新しい疑問、または答えを得られなかった疑問はあるか
20/80 ルールを守る: 時間内の 80% はユーザーに話してもらい、プロトタイプの紹介は 20% にとどめます。自分のアイデアは伝えず、どのように動くかだけを説明し、あとはテストをした人に話してもらいます。
プロトタイプは正しいことを前提に作成し、テストは誤っていることを前提にして行います。そして、失敗したことを喜び、また前のプロセスに戻ります。
まとめ
常にユーザーの価値観に焦点を絞る: 意義があり、役に立つものづくりを支えているのは、ユーザーの存在である。
「だけど、でも」と考えるよりも、完璧でなくてもまずは行動してみること。
時間を言い訳にするのはナンセンス。今日、この時間で成し遂げたことを考えてみれば明白です。
さまざまな考えを持つ人に集まってもらい、さまざまな視点から物事を見られるようにすることが大切。
実験および経験を重視して、まずはユーザーへアプローチしてみること。
言葉で表現するのではなく、物を見せるべき。そのほうがずっと説得力があり、さらなるユーザーインサイトを導き出すことができる。
イノベーションを生み出すためには、部門・役職などの垣根を越えるべき。
いかがでしょう?
たしかに経営は遊びではありませんから、プロフィットを生み出すためには、より客観的で実現性の高いアイデアが求められるわけです。
しかし、常にロジカル・シンキングでファクトをグイグイ追求しまくっていると、みんな疲れきってしまいます(笑)
ですから、時には右脳をフル活用して、「これって面白いかな?」「え!そこに着目するの?」ということを皆でアウトプットし合う時間も必要なのではないかと思います。
今回実施したワークショップのように、最初から思考を狭めるのではなく、最初は誰も馬鹿にせず、否定せず、大きく広く考える。
その後、プロトタイプでフィードバックを得ながら、思考を収束していく。
つまり、きっかけは広くたくさんの価値観をキャッチし、答えにたどり着くまでに徐々にロジカルにしていく。イノベーションを生み出すためには、これが重要だと思うんです。
さて、今回3回目となる働き方改革シリーズは、一旦これで完結となります。
また書きたいことが出てきましたら、掲載していきたいと思います。
▼働き方改革をチームの働き方という視点で解説しています。
▼働き方改革を時間の管理という視点で解説しています。
▼効率的な会議設計という視点で解説しています。
▼会議室の機材の準備を効率化する方法。